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東京高等裁判所 昭和46年(行コ)66号 判決

控訴人  昭和四六年(行コ)第六六号事件 公共企業体等労働委員会

昭和四六年(行コ)第六七号事件 国

訴訟代理人 黒田節哉 田井幸男 ほか四名

被控訴人 昭和四六年(行コ)第六六号事件 国

訴訟代理人 黒田節哉 田井幸男 ほか四名

昭和四六年(行コ)第六六号・六七号事件 全逓信労働組合宮崎県北部支部

参加人  昭和四六年(行コ)第六六号事件 国

主文

一  原判決中申立人被控訴人〔編注:全逓信労働組合宮崎県北部支部を指す。以下同じ。〕と被申立人延岡郵便局長間の昭和三六年(不)第三二号救済命令申立事件につき控訴人〔編注:公共企業体等労働委員会を指す。以下同じ。〕が昭和四〇年三月八日にした原判決書添付の命令書記載の主文第二項ならびに第三項のうち(1)被控訴人が昭和三六年八月一七日した団体交渉の申入れに対する拒否(2)同月一六日の全逓信労働組合宮崎県地区本部の役員に対する尾行がいづれも不当労働行為を構成しないとしてこれ等の点に関する被控訴人の救済命令申立を棄却した部分を取消した部分を取消す。

二  参加人〔編注:国を指す。以下同じ。〕の控訴中右主文第二項を取消した原判決の部分の取消を求める部分を却下する。

三  控訴人および参加人のその余の控訴を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分しその二あてをそれぞれ被控訴人および参加人の各負担とし、その余は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

昭和四六年(行コ)第六六号事件につき

(一)  原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。

(二)  被控訴人および参加人の請求をいずれも棄却する。

(三)  訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人および参加人の負担とする。

二  参加人

昭和四六年(行コ)第六六号事件につき

(一)  控訴人の控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

昭和四六年(行コ)第六七号事件につき

(一)  原判決中被控訴人及び控訴人間の救済命令取消請求事件に関する控訴人の敗訴部分を取消す。

(二)  被控訴人の請求を棄却する。

三  被控訴人

昭和四六年(行コ)第六六号及び同第六七号事件につきいずれも控訴棄却する。

第二当事者の主張

一  参加人の請求原因

原判決書四枚目表一行目から同六枚目裏四行目までと同一であるからこゝにこれを引用する。

二  控訴人の参加人の請求原因に対する答弁

同八枚目表二行目から同九枚目表六行目までと同一であるからここにこれを引用する。

三  被控訴人の請求原因

同一〇枚目表一行目から同一七枚目裏一〇行目までおよび同一八枚目裏七行目から同一九枚目裏七行目までと同一であるからここにこれを引用する。

四  被控訴人の請求原因に対する控訴人の答弁

同二二枚目表一行目から同二四枚目裏四行目までおよび同一〇行目から同二五枚目表三行目までと同一であるからこ・にこれを引用する。

五  被控訴人の請求原因に対する参加人の答弁

(一)  尾崎地区本部書記長に対する尾行(被控訴人の請求原因中引用に係る原判決書一八枚目裏七行目から同一九枚目表五行目までに摘示の事実)について、宮崎の係官が右書記長を追尾したのは延岡電報電話局公衆室までで全電通労組事務所まで尾行し被控訴人組合の秘密連絡場所を発見した事実は否認する。

(二)  昭和三六年八月一四日の被控訴人の組合集会調査監視等(被控訴人の請求原因中引用に係る原判決書一九枚目表六行目から同裏七行目までの事実)について右集会の情況を写真に撮影したり、メモによつて記録した事実および尾崎書記長が宮崎延岡郵便局長らに対し抗議し集会の場所から退去するように再三要求した事実は否認する。

と述べたほか参加人の被控訴人の請求原因に対する答弁は控訴人の右請求原因に対する答弁と同一である。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  本件救済命令の内容、命令が発せられた日時およびそれが被控訴人に交付された日時ならびに本件の背景となる事実の認定については左記の訂正を加えるほか原審判決書二七枚目表一行目から同三〇枚目表六行目までを引用する。

(一)〈省略〉

(二)〈省略〉

二  被控訴人支部事務所出入禁止措置について

(一)  右の事実関係および不当労働行為成否についての判断は原審判決書三〇枚目裏五行目〈証拠省略〉の下に〈証拠省略〉を加え同三一枚目裏七行目〈証拠省略〉の下に〈証拠省略〉を加えるほか同三〇枚目表八行目から同三七枚目表九行目までと同一であるから、ここにこれを引用する。

(二)  条件付救済命令の適否について

当審は原審と異り本件救済命令主文第二項掲記のような条件を付した救済命令も適法でありこれを違法として取消した原判決部分はこれを取消すべきものと思料するがその理由は次のとおりである。

当審も原審と同じく参加人の被控訴人支部出入禁止の措置は不当労働行為を構成するものと判断するが他方において被控訴人の側にも参加人の業務を妨害した事実があつたことは前段認定のとおりであるからかかる状況の下においては使用者側の非だけを非難するに止まらず労働者の側の非もとがめることによつてバランスをとり適切妥当な解決を図ることは救済命令の方法として許されることであると解するからである。けだし元来不当労働行為制度の趣旨は労使間にあるべき正常な関係がゆがめられた場合にそれを除去して正常な関係にもどし将来の安定した労使関係を確立するところにあるから労働者側にも非のある場合救済の条件として、労働者側にも謝罪等不利益な行為を要求することは右の制度の趣旨に合するからである。これに対しては「現行不当労働行為制度は使用者側からの団結権侵害から労働者側を救済することだけを目的とするものであるから、労働者側の非をも指摘し労使双方の非の調整する方法で労働関係の安定を図ることは、解雇、懲戒、損害賠償等民事訴訟手続または調停あつせん手続の担当する事項であつて、労使関係の安定化の名目の下に労使双方の非を救済命令主文で考慮するとすればそれは調整以外の何ものでもなく不当労働行為制度における労働委員会の権限を逸脱するものである。条件付救済命令は労働委員会の権限を逸脱したものであり労働委員会の判定機能と調整機能との間には混同があつてはならない。また現行不当労働行為制度における救済命令の名宛人は使用者である。しかるに「条件付救済命令は労働者側が条件とされた一定の行為をしなければ救済を受けられないという意味で、結果的には労働者側に一定の行為を命じたのと同様になる。」という反論があり得るが救済命令は労働者側に何等の行為をも命令していないのであつて、労働者側が条件とされた行為をしないでも命令違反としての制裁が課せられるわけではなくこの点で使用者えの一定の行為を命ずるのとは性質を異にするものであり、名宛人が使用者側であることに矛盾はない。

三  昭和三六年八月一七日の団体交渉拒否について

(一)  当日の被控訴人の参加人に対する団体交渉申入およびこれに対する参加人の交渉拒否の経過に関する事実認定については、原判決書四一枚目裏三行目〈証拠省略〉の下に〈証拠省略〉を、同七行目「支障があるから」の下に「同日の」を、同四二枚目表一行目〈証拠省略〉の下に〈証拠省略〉を各附加するほか原判決書四一枚目表三行目から同四二枚目表末行までと同一であるからここにこれを引用する。

(二)  以上の認定事実によれば被控訴人支部の団体交渉申入れはいわゆる強制労働排除についての被控訴人支部組合員の労働条件に関する正当な交渉事項に関する団体交渉の申入れではあつたが、当日は延岡郵便局長が熊本郵政局から同郵便局に来局した熊本郵便局の長井業務課長と遅配対策についての業務打合せ中であつたのに同日午後一時半ごろに同日午後三時からの交渉を求めたのであつて時間的にも切迫して余裕がなくかつまた〈証拠省略〉によれば被控訴人支部は当日の団体交渉の場所を延岡郵便局長室と指定して申入れて来たことが認められるけれども前段認定のとおり同日は被控訴人支部応援のため外部組合員が多数集合しており被控訴人支部長土田靖が団体交渉申入れに際しその中で団体交渉をすると申入れたのであるからたとえ右局長室内で交渉が行われたとしてもその交渉には混乱が伴い相当長時間に渉ることが予測され前段認定のとおり滞留排送業務に努力中であつた延岡郵便局の局長として同日の交渉申入れを拒否したことは無理からぬところがありその拒否には正当の理由があつたと認められまた前段認定のようにいわゆる強制労働の問題は同年同月一一日から同月末までの間の問題であつたから同日に交渉が行われなくても同日から同月末日までの間にこの交渉が行われれば交渉自体が無意義になるという事情もなかつたのである。したがつて同日の交渉拒否が不当労働行為を構成しないとしてこの点に関する被控訴人の救済申立を棄却した控訴人の命令を取消した原判決の部分は取消を免れない。

四  尾崎書記長に対する尾行について、

(一)  この点に関する事実の認定については原判決書四六枚目表五行目〈証拠省略〉の下に〈証拠省略〉を加えるほか同四五枚目裏一〇行目から同四六枚目表九行目までを引用する。

(二)  そして〈証拠省略〉には宮崎係官が尾崎書記長を尾行したのは同書記長が他の門から入局するかもしれないのでこれを阻止するためであつたとの記載があり当審証人宮崎演紀もその証言において同趣旨の供述をしているけれども、当時延岡郵便局長が各門に職員を配置して尾崎書記長らの上部組合役員の入局を禁止する措置をとつていたことは先に認定したとおりであるから(引用に係る原判決書理由第三項H記載の事実)他の門からの入局を阻止するためには延岡郵便局の通用門を立去つた同書記長を尾行して同郵便局庁舎の裏側にある延岡電報電話局舎庁内までも追行する必要はなくその尾行には行過ぎた点があつたといえるかもしれない。しかしながら右証人宮崎演紀の証言によれば右電報電話局庁舎内の被控訴人支部の秘密の連絡場所を同証人が発見したのは全く遇然であつてスパイ行為をする意思があつたと認められないから右の尾行行為を目して不当労働行為に当るとすることはできない。

五  昭和三六年八月一四日の集会監視について

この点に関する事実認定および判断については原判決書四七枚目表五行目から同四八枚目裏五行目までを引用しかつ左記を附加する。

本件においては、郵便局長らは組合を監視し、しかも再三組合員から再三退去を要求されながらこれに応じなかつたのであるから、たとえその間状況を記録しまたは写真に撮影するなどのことがなかつたとしても、組合員の意思に暗黙の圧力を加えその発言か意思決定に影響を及ぼす虞れがないとはいえず、かかる監視は被控訴人組合に対する不当な支配介入と評価されて然るべきものであつて、これが不当労働行為に当らないとする控訴人の主張はその理由がなく従つてこの点に関する控訴人および参加人の控訴はいづれも失当である。

六(一)  なお原判決はその理由中において参加人の被控訴人支部組合事務所出入禁止措置を控訴人の本件救済命令と同じく不当労働行為に当るとしながら右命令第二項の条件付の救済命令は違法であるとして右命令の当該部分を取消したのであるが、原判決の右命令部分の取消は参加人の右措置が不当労働行為に当らないとの主張を是認したものではなくただ参加人は原判決において右命令中の当該部分取消の形式的な勝訴の判決を得たにすぎず、むしろ控訴人が参加人に対し原判決の当該部分については実質的に勝訴の判決を得ているというべきであるから控訴人の参加人に対する昭和四六年(行コ)第六六号事件の控訴は控訴の利益を欠き右控訴は不適法として却下すべきではないかとの疑義については、たとえ原判決がその理由中において右出入禁止措置は参加人の不当労働行為に当るとして参加人に不利控訴人に有利な判応が示めしていたとしてもその理由中の判断については当該判決の既判力ないし拘束力は生ずるものではなくそれはただ本件救済命令主文第二項を違法としてこれを取消すべきものとする原判決の主文についてのみ生ずるものと解するから形式的にもせよその点に関し参加人が勝訴している以上控訴人の右控訴は適法というべくこれを却下すべきでない。

(二)  しかしながらこれとは逆に参加人の被控訴人に対する第六七号事件の控訴中控訴人の本件救済命令主文第二項を取消した原判決の部分の取消を求め当該部分の被控訴人の請求の棄却を求める部分は前示の如く原判決が被控訴人の支部組合事務所の出入禁止措置を不当労働行為であるとした点において参加人の主張を排斥しているものであるが右命令第二項の条件は違法であるとして結局同項の命令を取消し形式的には同項の命令の取消を求める参加人が勝訴の結果を得ているのであるから、控訴の利益がないものとしてこれを却下すべきである。

よつて控訴人の本件控訴中本件不当労働行為救済命令のうちその主文第二項および第三項のうち(1)被控訴人組合が昭和三六年八月一七日した団体交渉の申入れに対する拒否(2)同月一六日の全逓労働組合宮崎県地区本部の役員に対する尾行がいづれも不当労働行為を構成しないとしてこれ等の点に関する被控訴人の救済命令申立を棄却した部分を取消した原判決の部分の取消を求める部分および参加人の控訴中右主文第三項(1)および(2)掲記の事実がいづれも不当労働行為を構成しないとしてこれ等の点に関する被控訴人の救済命令申立を棄却した部分を取消した原判決の部分の取消を求める部分はこれを正当として認容し参加人の控訴中右主文第二項を取消した原判決の部分の取消を求める部分はこれを不適法として却下しその余の控訴人ならびに参加人の控訴はこれを失当として棄却すべきものとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 菅野啓蔵 館忠彦 安井章)

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